こんにちは。平野歯科クリニックの歯科保存学会認定医の川嵜です。
今回は歯の神経の治療(根管治療)におけるコーンビームCT(CBCT)の有効性について解説したいと思います。大きな虫歯等で一度感染を起こしてしまった歯の神経の治療を、専門用語で感染根管治療と呼びます。この状態を放置してしまうと、感染が神経の外にまで及び、歯の根の外側に感染が拡大し、根尖病巣という膿の塊を形成します。以下に歯の模式図で示します。
一般的に歯科医院では、根管治療が必要な歯に対して、感染の拡大や歯の神経の走行を確認する際に、レントゲン撮影を行います。通常、歯科医院では、デンタルX線写真を撮影し、根管の走行、感染の拡大の程度を確認します。デンタルは口腔内での位置づけが非常に大切なので、インジケーターという位置づけ可能な器具を患者様に咬んで頂く事が多いです。
一般的に、根管治療を行う前にデンタルを撮影し、診査、診断を行うことが多いですが、より詳細な情報が場合は、必要に応じてCBCTを撮影します。以下にCBCTと撮影画像の例を示します。
デンタルは2次元の画像であり、CBCTは3次元の画像となるため、CBCTからはより多くの情報を得ることが可能となります。
この特徴の違いにより、根管治療を行う際のCBCT撮影によって、感染を起こしている歯の神経の病気を早期発見できるというメリットが挙げられます。
根尖病巣の初期症状は歯の根の浮いたような感覚が初発症状として発生します。CBCT を使用すると、デンタルと比較してこの根尖病巣をより早く検出でき、根尖病巣のサイズ、性質、位置を評価できます。過去の研究において、CBCT スキャンと 2 枚の角度を付けた根尖周囲 X 線写真を使用して、下顎および上顎の臼歯 46 本の根尖周囲の状態を比較しました。 32 本の歯は従来の X 線写真を使用して根尖病変と診断され、さらに 10 本 (24%) は CBCT で診断されました。これらの歯の個々の歯根の根尖周囲の状態を評価した場合、CBCT では従来の X 線写真よりも 38% 多くの根尖病巣を検出できたと報告されています。
以下は論文からの引用になります。左のデンタルでは根尖病巣が確認できませんが、右のCT画像において、黄色の矢印で示すように根尖病巣が確認されています。
CBCTの有効性を示す症例をもう一つ紹介します。当院にて根管治療を行った患者様です。問診を行うと、左下の奥歯に噛んだ時の違和感を訴えられておりました。口腔内診査とデンタルX線写真から黄色の矢印で示す歯が違和感の原因であることが判明しました。
より詳細に診査するため、CBCT撮影を行いました。
黄色の矢印で示すように、歯の根の外側に病巣が拡大していることを確認できました。CBCTは歯や歯髄、根尖病巣の形態について詳細な情報を提供してくれるため、根管治療において極めて有効な機器となります。
CBCTのデメリットとして、デンタルと比較して放射線の被爆量が多いことが挙げられるものの、数回の撮影で人体の健康に悪影響を及ぼすことはありません。被爆量の具体的な数値を以下に示します。
健康上の問題が生じないとされる被爆量の上限:100ミリシーベルト
・一般人の年間被爆量:1.0ミリシーベルト
・東京-ニューヨーク間の飛行機での1往復の被爆:0.2ミリシーベルト
・CBCTの被爆量:0.1ミリシーベルト
・デンタルの被爆量:0.01ミリシーベルト
さらに、撮影機器の開発によって、精度の向上、解像度の向上とともに、スキャン時間の短縮、被爆量の低減が進んでいます。
・CBCTは3次元の画像習得可能
・CBCTは歯髄の走行の把握に加えて、根尖病巣の早期発見が可能
・CBCTの被爆量は健康上の問題が起こる1/1000程度
当院はCBCTを完備しており、難易度が高い根管治療においては、CBCTを撮影することで、予知性の高い根管治療を行っております。根管治療でお悩みの患者様は是非当院にご相談下さい。
平野歯科クリニック
歯科保存学会認定医 川嵜公輔
引用文献
最新歯科衛生士教本 歯の硬組織・歯髄疾患 保存修復・歯内療法
Patel, S. “New dimensions in endodontic imaging: Part 2. Cone beam computed tomography.” International endodontic journal 42.6 (2009): 463-475.
Arai, Yoshinori, et al. “Practical model “3DX” of limited cone-beam X-ray CT for dental use.” International Congress Series. Vol. 1230. Elsevier, 2001.
Cotton TP, Geisler TM, Holden DT, Schwartz SA, Schindler WG.Endodontic applications of cone-beam volumetric tomography. J Endod 2007; 33(9):1121-1132.
東京都歯科医師会HP