こんにちは。平野歯科クリニック、歯科保存学会認定医の川嵜です。
本日は歯科治療の中で、マイクロスコープを用いた根管治療について解説したいと思います。
マイクロスコープは歯科治療で使用する手術用の実体顕微鏡のことです。マイクロスコープにより、歯科医師は患者の歯の内部の細部を観察する能力が大幅に向上します。歯科用顕微鏡は肉眼の最大 25 倍まで拡大できるため、診断と治療の両方に役立ちます。下の図は根管治療中の上の奥歯の拡大視野の比較のイメージ画像になります。
過去の研究では、マイクロスコープを使用せずに行われる治療と比較して、拡大視野によって良好な結果が得られることが実証されています。日本歯科保存学会という虫歯治療の学会においても、学会認定医の研修項目にマイクロスコープの使用が含まれています。
1)手術用顕微鏡(マイクロスコープ)の構造と機能を説明できる.
2)歯内治療における手術用顕微鏡(マイクロスコープ)の適応例を説明できる.
3)手術用顕微鏡(マイクロスコープ)を応用した歯内治療を必要に応じて実施,ま
たは依頼できる.
さらに、米国の歯内療法学会では、マイクロスコープは根管治療において、次のような場面で役立つと結論付けています。
①隠れた根管を見つける
②破折器具の撤去
③歯の切削量の減少
④歯科医師の診療姿勢の改善
こちらでは、①の隠れた根管の発見について解説したいと思います。下の図では歯の模式図を示しています。歯は、歯茎の上に見えている歯冠と骨に埋まっている歯根に分けられます。また、歯冠はエナメル質、象牙質、冠部歯髄の3層構造で構成され、歯根は象牙質と根部歯髄で構成されています。
根管は根部歯髄の入口に相当します。先ほどの画像は冠部歯髄を除去し、根部歯髄の入口である根管口が見えている状態の画像になります。
根管治療においては、象牙質やエナメル質を極力削らないように保存し、全ての根管を発見して、可及的に内部を清掃し、緊密に封鎖することが大切です。マイクロスコープは歯の切削量を抑えて、根管を発見する際に極めて効果です。
上顎の大臼歯はもともと根管治療が難しい歯ですが、その中に第二近心頬側根管(MB2)という根管の見落としが原因として挙げられます。上顎大臼歯はMB、MB2、DB、Pの4根管を有していることが多く、根管治療が最も難しい歯になります。
また、上顎大臼歯の根管の中で最も見つけにくいのがMB2になります。根管治療を行った後の上顎大臼歯の症状が改善しない場合、MB2が未処置のままで感染を起こしてことがしばしば見受けられます。MB2が原因で歯の痛みが発現している場合、MB2を発見して清掃しなければ、症状が改善しません。
1999年に発表された論文によれば、マイクロスコープを使用した根管治療では、約20%もMB2の発見能力が向上したという論文があります。以下にその論文からの引用データを掲載しておきます。
このように、今から20年以上前からの根管治療におけるマイクロスコープの有用性は証明されていいます。しかし、臨床の現場においては、MB2が狭窄しており、発見困難ことがしばしばあります。その時はCBCTとマイクロスコープを併用することで、効率よくMB2を発見することができます。
因みに、先ほどの画像はMB2に加えて、MB3という3根管目が存在している珍しいケースでした。
当院において、マイクロスコープを用いて、MB2を発見した症例を示します。左に術中の画像、右に術後のレントゲン画像を示します。マイクロスコープのお陰で隠れていたMB2を発見することができました。
このように難しい根管治療においても、マイクロスコープが効果を発揮し、精度の高い根管治療を行うことが可能となります。
・マイクロスコープは裸眼の15倍の拡大視野を提供
・マイクロスコープは、根管治療中の歯の切削量を抑えて、隠れた根管の発見が可能
・上顎大臼歯には発見が難しいMB2という根管があり、マイクロスコープはMB2の発見に有効
当院はマイクロスコープも完備しておりますので、根管治療でお悩みの方は是非一度ご相談下さい。
平野歯科クリニック
歯科保存学会認定医 川嵜公輔
引用文献
Global社 HP
最新歯科衛生士教本 歯の硬組織・歯髄疾患 保存修復・歯内療法
https://www.aae.org/specialty/clinical-resources/microscopes-in-endodontics/
日本歯科保存学会 HP
第22版 歯の解剖学
Stropko JJ. Canal morphology of maxillary molars: clinical observations of canal configurations. J Endod. 1999;25(6):446-450. doi:10.1016/S0099-2399(99)80276-3
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Parirokh M, Manochehrifar H, Kakooei S, Nakhaei N, Abbott P. Variables That Affect the Ability to Find the Second Mesiobuccal Root Canals in Maxillary Molars. Iran Endod J. 2023;18(4):248-253. doi:10.22037/iej.v18i4.42260