右上の歯肉の腫れが主訴で来院された患者様です。来院された時点で、右上の歯は根っこが折れた状態であり抜歯対象となる状態でした。患者様に口腔内の状態をご説明し、 抜歯後の対応についてお話ししました。今回歯の歯根破折の根本的な原因は噛み合わせであると考えられます。根本的に治療をしていくのであれば矯正治療が望ましいことをご説明したところ、矯正検査を希望されました。
ANB(上下顎の前後的位置関係)が6.1であることからSkeletal Ⅱ級と診断でき、骨格的に上顎が前方にある状態です。第一大臼歯と犬歯の関係からはAngleⅡ級と診断でき、下顎の歯列に対して上顎の歯列が前方にずれている噛み合わせの状態であります。
そして、U1 to A-pog及びL1 to A-pogが共に標準値を大きく上回っていることから、上下顎共に歯列が前突していることがわかります。
Steinerの分析とSETUP模型分析により、最終的な歯列のゴールの設定を行いました。前歯の位置は、上顎前歯を7mm、下顎前歯を5mm舌側に移動させて排列します。
最終的な上下顎前歯関係として、オーバージェット(上下顎前歯の前後的位置関係)2.5mm、オーバーバイト(上下顎前歯の垂直的位置関係)2.5mmに設定しました。
上下顎ともに歯列が前突しているため前歯の位置を舌側に移動させる設定としましたが、そのスペースを作るために抜歯が必要となります。一般的な上下顎前突の矯正治療においては、4番(第一小臼歯)抜歯を選択する場合が多いですが、今回のケースにおいては上顎は5番(第一小臼歯)抜歯を選択しました。なぜならば、右上5番はすでに歯根破折しており抜歯対象歯であり、左上5番は神経を抜いた歯(失活歯)であるため、予後の悪いこれらの歯を抜歯部位としました。
通常、4番抜歯ではなく5番抜歯を選択すると、治療期間が伸びてしまう事があります。この点は、アンカースクリューという細いネジのような器具を用いて、歯を効率的に動かし、トータルの治療期間を短縮する事で解決できました。
本症例では、矯正治療を行うにあたり、歯根破折で欠損歯になるところを抜歯部位としました。抜歯により生まれたスペースを用いて、上下の前歯部を後退させ、噛み合わせを改善しました。そのため、歯根破折歯の欠損部位にインプラントや義歯を用いることなく問題を解決できました。さらに、前歯部の噛み合わせを改善できた事で、口元の美しさが改善すると共に、歯根破折の根本的な原因であった臼歯部の咬合負担を軽減させる事ができました。矯正治療の結果、機能と審美の両立が可能な噛み合わせとなり、患者様にも大変喜んで頂きました。