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歯の神経を残す ”MTAセメント”とは|箕面市の歯医者

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カテゴリ:医院コラム

歯の神経を残す ”MTAセメント”とは|箕面市の歯医者

MTAセメントとは

こんにちは。平野歯科クリニックの歯科保存学会認定医の川嵜です。

今回は、大きな虫歯がある時に、歯の神経(歯髄)を保護する目的で用いるMTAセメントという材料について解説します。

歯髄の保護の意義とその治療法

大きな虫歯の治療しているときに、歯の内部にある歯髄が露出することがあります。一般的には虫歯の除去中に歯髄が露出した場合、歯髄は虫歯菌に感染していると判断し、歯髄の除去を目的とした根管治療が必要となります。歯髄除去を行った歯は、歯髄を除去していない歯と比較して、耐久性が低下することが分かっており、歯の根が割れる(歯根破折)のリスクが高いと報告されています。歯根破折を起こした歯は、基本的に抜歯以外の治療方法が無いため、歯髄は積極的に保存することが推奨されます。歯髄が感染を起こしていなければ、大きな虫歯があっても歯髄を保存できる可能性が高まります。この治療は歯髄保存療法と呼ばれ、英語ではVital Pulp Therapyと称し、頭文字を取ってVPTと略されます。具体的には、4つのステップで行います。

1.局所麻酔を効かせた状態で、むし歯を完全に除去します。

2.歯髄表面の止血、洗浄します。

3.露出した歯髄をMTAセメントで保護します。

4.樹脂で蓋をして、症状が落ち着いたら被せ物を入れます。

上記のように、歯髄を保存できることで、歯の寿命を伸ばすことが可能になります。

MTAセメントとは

正式名称 Mineral trioxide aggregate (MTA)セメントは主にカルシウムとケイ酸塩元素で構成される粉末状の物質です。このセメントは 1990 年代に Torabinejad氏 によって歯科の治療に導入され、1997 年に米国での使用が承認され、2007年より日本での使用が承認されました。粉末状のMTAは蒸留水と混ぜることで硬化するという特徴を持っています。以下にMTAセメントの混和時の過程を示します。粉と水を混ぜるシンプルな操作ですが、適度な粘稠度に調整するのは難しく、経験が必要です。

MTAは優れた生体適合性と密閉能力を有し、MTAは強アルカリ(PH:12.5)の為、根の先の細菌に対しての殺菌効果を示した後、乾燥すると中性となり為害作用がなく、生体親和性の高い身体に安心安全な材料です。 MTAで歯髄を直接保護すると、デンチンブリッジという象牙質の壁が形成されます。この壁の形成こそ、MTAを歯髄保存治療に使用する最大のメリットです。以下にMTAで直接歯髄を保護した3カ月後にデンチンブリッジの形成を認めた歯の病理画像(光学顕微鏡x100倍)を示します。黄色の破線で示すのがデンチンブリッジです。

歯髄保護の直後に、MTAと接触していた歯髄は一時的な炎症反応(痛み)が発生することが報告されています。この痛みは通常は1週間ほどで治まることが多いですが、炎症反応が強く、疼痛が続く場合は歯髄の除去を目的とした根管治療が必要となります。MTAによるVPTを行った歯については、冷たいものがしみるといった知覚過敏症状が継続することが良くあります。多くの場合は1週間以内に軽減しますが、3カ月ほど継続したという報告もあります。また材料の特徴として、硬化に時間を要すること、MTA自体が非常に高額なことが欠点として挙げられます。そのため、MTAを使った歯髄の保護は優れた治療法である一方、難易度が高い治療法と言えます。

VPTの成功率について

実際に、MTAを歯髄の保護に用いた場合に90%以上の高い成功率をもたらすことが報告されています。2017年に発表された論文によると、19本の永久歯の虫歯の除去中に歯髄が露出したケースについて、生理食塩水で洗浄し、MTAを用いたVPTを行い、その後1年間の追跡調査を行いました。その結果、19/19本、100%の成功率を報告しています。

2018年に報告された論文では、25本の永久歯の重度の虫歯に対してMTAを用いたVPTを行い、3年間の追跡調査の結果、24/25本、96%の治療が成功したと報告しています。

VPTの術後疼痛について

以下にVPTと術後疼痛の関連を調べた論文よりデータを引用します。こちらの論文はVPT後の術後疼痛がVPTの成功率に及ぼす影響の検討を行いました。歯髄に至るほど大きな虫歯のある73名の成人患者に対して歯学部の学生が専門医の監督下でVPTを行い、VPTの成功率と痛みの関連を調べました。

術後、多くの患者様が一時的な疼痛を自覚されますが、VPTが成功する場合症状の改善が認められます。逆に3ヶ月が経過しても、症状が緩解しないケースについては歯髄除去を目的とした根管治療が必要になると結論付けています。

当院での治療例

次に、当院にて、VPTを行った症例を紹介致します。左上の第一大臼歯に歯髄に接するほど大きな虫歯を認めます。健康な歯と比較して、虫歯になった歯は放射線の透過性が高いため、レントゲン写真では黒っぽく見えてきます。

歯髄を赤色、虫歯を黄色で示すと以下のようになります。

このようなケースでは、虫歯を全て除去すると、歯髄が露出し感染してしまう可能性があります。そこで、患者様にはMTAを用いたVPTを行うことを提案させて頂きました。まず麻酔を行い、ラバーダムという装置を装着します。むし歯を徹底的に除去して、歯髄が露出したところがこちらの画像になります。赤矢印で示すように、歯髄からは出血が認められます。歯髄の出血部位を洗浄し、清潔な綿球をそっと置いて、止血が確認できたらMTA充填します。歯髄からの出血の止血ができるかどうかも、歯髄が保存可能かどうか判断する重要な因子です。

止血を行い、MTAを充填したあとの画像がこちらになります。MTAは白い粉末状の物質であるため、下図示すように、露出した歯髄に直接接触させます。

このあと、樹脂で仮の蓋をしますが、MTAは樹脂の接着操作を阻害していまうため、歯髄に接触させていない余剰なMTAは丁寧に除去します。MTA充填後に撮影したレントゲン写真を以下に示します。

歯髄を赤色、充填されたMTAセメントを水色で示します。

このように、歯髄温存療法においては、歯髄に対して直接MTAを接触させ、樹脂で充填して仮の封鎖を行い、この日の処置は終了です。この症例においては、処置後3日ほど冷たいものがしみる症状が発現し、4日目から症状は減退しました。

まとめ

・MTAセメントはカルシウムを主成分とする粉末状の材料

・MTAセメントは身体に優しい材料で、VPTにおける歯髄の保護材として使用可能

・歯髄の保護材としてMTAを使用すると、一時的な疼痛が発現

・VPTの成功率は100%ではないため、症状が改善しない場合は、根管治療が必要

当院のむし歯治療においても、MTAを積極的に使用し、可能な限り歯髄の保護に努めております。歯髄の保存が難しい、重度のむし歯治療についてもMTAを用いることで、歯髄が保存できる可能性があります。むし歯治療でお悩みの方は是非一度ご相談下さい。

平野歯科クリニック

歯科保存学会認定医 川嵜公輔

 

 

引用文献

最新歯科衛生士教本 歯の硬組織・歯髄疾患 保存修復・歯内療法

https://www.dental-plaza.com/article/biomta/feature/

Özgür B, Uysal S, Güngör HC. Partial Pulpotomy in Immature Permanent Molars After Carious Exposures Using Different Hemorrhage Control and Capping Materials. Pediatr Dent. 2017;39(5):364-370.

Awawdeh L, Al-Qudah A, Hamouri H, Chakra RJ. Outcomes of Vital Pulp Therapy Using Mineral Trioxide Aggregate or Biodentine: A Prospective Randomized Clinical Trial. J Endod. 2018;44(11):1603-1609. doi:10.1016/j.joen.2018.08.004

Shallal-Ayzin, Mark, et al. “A prospective analysis of the correlation between postoperative pain and vital pulp therapy.” Frontiers in Dental Medicine 2 (2021): 647417.

Parirokh, Masoud, M. Torabinejad, and P. M. H. Dummer. “Mineral trioxide aggregate and other bioactive endodontic cements: an updated overview–part I: vital pulp therapy.” International endodontic journal 51.2 (2018): 177-205.

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